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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2625号 判決

(争いのない事実)

一 控訴人が本件実用新案権の権利者であること、本件実用新案登録請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであること、及び被控訴人が控訴人主張の(イ)号ないし(ハ)号製品を製造販売し(その製造の開始時期の点を除く。)、同製品の構成が控訴人主張のとおりであり、かつ、同製品に用いられている着色透明樹脂板が偏平状であることについては、本件当事者間に争いがないところである。

((イ)号ないし(ハ)号製品に対する差止請求権等の有無について)

二 まず、(イ)号ないし(ハ)号製品が本件実用新案の技術的範囲に属するか否かについて判断するに、同製品は、以下に説示するとおり本件実用新案の技術的範囲に属するものとすることはできない。すなわち、

1 前記当事者間に争いがない本件実用新案登録請求の範囲の記載に原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)の「考案の詳細な説明」の項及び図面の記載を総合すると、本件実用新案は、控訴人主張のとおりの構成からなるものであることが認められ(なお、控訴人は、本件実用新案は、内設した光源から直接外部に光を照射する点が重要な構成である旨主張するが、右主張は、前掲各証拠に照らし、採用の限りでない。)、右認定の本件実用新案の構成と(イ)号ないし(ハ)号製品の前示構成とを対比すると、本件実用新案においては、保護カバーに多数の透明球体を嵌着する構成となつているのに対し、(イ)号及び(ロ)号製品においては、その保護カバーに台形状の偏平な着色透明樹脂板((イ)号製品については二個、(ロ)号製品については四個)、また、(ハ)号製品においては、その保護カバーに偏平な円形透明樹脂板一個を嵌着している点において、その構成を異にすることが明らかである。

2 よつて、右の相違点について考えるに、前示本件実用新案登録請求の範囲には「透明球体」なる文言が明記されていること、前掲甲第二号証、殊にその「考案の詳細な説明」の項左欄第一文にある「本考案は道路面に敷設するセンター鋲に関し歩行者並びに運転者に対して昼間のみならず夜間に於いても明瞭にこれを識別し得る」旨及び同項右欄第五文にある「本考案の特徴は点滅灯5を内設した点にある。すなわちこれを点滅させる事によつて歩行者及び運転者への注意を喚起してこれらに危険又は注意の情報を伝達する」旨の記載並びに図面に多数の球体が明示されていることを総合すると、本件実用新案は、歩行者及び運転者に昼間、夜間を通じ点滅鋲を明瞭に識別させる効果を生ぜしめることを目的とするものであるところ、前認定の構成において保護カバーに嵌着する透明体を球体の形状のものとし、これにより点滅灯の光を四方に拡散せしめ所期の目的を達しうるようにしたものであることは、容易に看取しうるところであり、したがつて、保護カバーに嵌着する透明体が球体であることは、本件実用新案の必須の構成要件とみるべきである。しかるに、(イ)号ないし(ハ)号製品の透明樹脂板は、前示のとおり球体ではなく、その形状に照らし、本件実用新案において透明球体が生ぜしめる前示の作用効果と同等の作用効果を奏し得ないことは明白である。したがつて、両者は、この点において技術的思想を異にするものというべく、(イ)号ないし(ハ)号製品は本件実用新案の必須の構成要件を欠くものといわざるを得ない。

3 控訴人は、両者の右の相違は、構造上の微差あるいはその作用効果において同一であるから、均等である旨主張する。しかしながら、本件実用新案の透明球体と(イ)号ないし(ハ)号製品の透明樹脂板とが、その構成及び作用効果において、これを同一視し得ないことは前説示のとおりであるから、右相違をもつて構造上の微差あるいは均等をもつて論ずることは当を得ないものというべきであり、したがつて、控訴人の右主張は採用しうる限りでない。

以上のとおり、(イ)号ないし(ハ)号製品は、本件実用新案の必須の構成要件を欠くから、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべきであり、控訴人は、被控訴人に対し同製品の製造販売の差止請求権及び廃棄請求権を有しないものというほかない。

(損害賠償請求権の有無について)

三 控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求中(イ)号ないし(ハ)号製品については、同製品が本件実用新案の技術的範囲に属することを前提とするところ、前認定のとおり同製品が本件実用新案の技術的範囲に属しない以上、その余の点を判断するまでもなく、この点の請求が理由がないことは明らかであり、また、(ニ)号製品については、被控訴人が控訴人主張の期間において同製品を製造販売したことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人のこの点の請求も、その余の点を判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

(結論)

四 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局正当であり、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却することとする。

〔参考〕本件の原審判決は左のとおりである。

一 請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案の構成要件は次の1ないし4からなるものであることが認められる。

1 多数の透明球体を嵌着した保護カバーを有すること

2 右保護カバーと底カバーを合着させ密閉室を形成していること

3 右密閉室中には制禦盤と連結して点滅する点滅灯を内設していること

4 道路の自動点滅鋲

二 請求原因4(一)(1)ないし(3)及び(4)<2>の事実は当事者間に争いがなく、右事実と(イ)ないし(ニ)号製品を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙(イ)ないし(ニ)号図面説明書(但し、(ニ)号図面説明書中着色透明樹脂球体との点を除く)及び(イ)ないし(ニ)号図面の記載によれば、(イ)ないし(ニ)号製品の構成は次のとおりであることが認められる。

1 (イ)号製品

(一) 台形状の着色透明樹脂板二個を嵌着したアルミ合金製の保護カバー

(二) 右保護カバーとアルミ合金製の底カバーを合着させ密閉室を形成する。

(三) 右密閉室中に耐震電球四個を内設し、道路外には右電球を適宜点滅させる制禦盤を連結させる。

(四) 道路の自動点滅鋲

2 (ロ)号製品

(一) 台形状の着色透明樹脂板四個を嵌着したアルミ合金製の保護カバー

(二) 右保護カバーとアルミ合金製の底カバーを合着させ密閉室を形成する。

(三) 右密閉室中に耐震電球四個を内設し、道路外には右電球を適宜点滅させる制禦盤を連結させる。

(四) 道路の自動点滅鋲

3 (ハ)号製品

(一) 円形の着色透明樹脂板一個を嵌着したアルミ合金製の保護カバー

(二) 右保護カバーとアルミ合金製の底カバーを合着させ密閉室を形成する。

(三) 右密閉室中に耐震電球一個を内設し、道路外には右電球を適宜点滅させる制禦盤を連結させる。

(四) 道路の自動点滅鋲

4 (ニ)号製品

(一) 一端が半球体で、他方の端が球面形状になつている円柱の着色透明樹脂体一二個を嵌着したアルミ合金製の保護カバー

(二) 右保護カバーとアルミ合金製の底カバーを合着させ密閉室を形成する。

(三) 右密閉室中に耐震電球四個を内設し、道路外には右電球を適宜点滅させる制禦盤を連結させる。

(四) 道路の自動点滅鋲

三 そこで、(イ)ないし(ニ)号製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

(イ)ないし(ニ)号製品と本件考案とを対比すると、前記のとおり多数の透明球体を嵌着した保護カバーを有することが本件考案の構成要件となつており、その形状、態様は別紙実用新案公報図面のとおり二〇個の透明球体が球面形状をなす保護カバーに嵌着されたものであるところ、前記のとおり、(イ)ないし(ハ)号製品においては、その保護カバーにいずれも一個又は二個若しくは四個の台形状又は円形の着色透明樹脂板が嵌着されており、右の点において本件考案の構成要件である透明球体とは相違があり、(ニ)号製品においては、その保護カバーに一二個の一端が半球体で、他方の端が球面形状になつている円柱の着色透明樹脂体が嵌着されており、この点において本件考案の構成要件である透明球体とは相違があるといえる。

原告は、右相違は構造上の微差にすぎないし、考案の構成要件上無視しうるものであると主張する。しかしながら、実用新案権の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(実用新案法二六条、特許法七〇条)ところ、本件実用新案の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載並びに前掲甲第二号証によつて認められる本件考案の明細書の詳細な説明の項及び図面の記載に照らせば、本件考案は多数の透明球体を嵌着した保護カバーを有する構造の道路の自動点滅鋲に関するものであつて、右のような構造の道路の自動点滅鋲を考案の要旨としたものと解すべきであるから、(イ)ないし(ニ)号製品と本件考案との前記相違は構造上の微差あるいは考案の構成要件上無視しうる形状のものであるとはいえない。したがつて、原告の右主張は失当である。

四 次に、原告は、多数の透明球体が保護カバーに嵌着されているか否かは外部の意匠に関することであつて、それ自体必須不可欠の要件ではなく、本件考案の構成上重要なのは内設した光源から直接外部に光を照射する点であり、(イ)ないし(ニ)号製品は右要件を充足するものであるから本件考案の均等物であると主張する。しかし、前判示のとおり、多数の透明球体が保護カバーに嵌着されていることは本件考案の構成要件であつて、それが外部の意匠に関するものでないことは明らかであるし、本件実用新案の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載にはもとより、前掲甲第二号証によれば、本件考案の明細書の詳細な説明の項にも原告主張のような内設した光源から直接外部に光を照射することに関する記載はない。更に、(イ)ないし(ニ)号製品が本件考案と均等であるとするには少なくともその作用効果が同一であることが必要であるところ、本件考案は内設した点滅灯の光が多方向に拡散照射される構造であるのに対し、(イ)ないし(ニ)号製品は光の照射方向が一又は二若しくは四方向に限定される構造であることを認めることができるから、一個又は二個若しくは四個の台形状又は円形の着色透明樹脂板あるいは一二個の一端が半球体で、他方の端が球面形状になつている円柱の着色透明樹脂体を有する(イ)ないし(ニ)号製品の構成が、その構成上本件考案と同一の作用効果を挙げえないことは明らかである。したがつて、原告の右主張は理由がない。

そうすると、その余について判断するまでもなく、(イ)ないし(ニ)号製品は本件考案の構成要件を欠いていることが明らかであるから、本件考案の技術的範囲に属するものではないといわねばならない。

五 よつて、被告製品である(イ)ないし(ニ)号製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は理由がないから棄却する。(昭和五九年八月三一日静岡地民一判・昭和五五年(ワ)一三九号同五七年(ワ)九二号)

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